首里への想いとお客様へのおもてなし。なぎいろの特別な贈り物
2023.04.06
FOOD箱を開けた瞬間、揺れる金箔とどっしりとしたパウンド生地の存在感に驚いていると、バターと卵、そしてほのかなラム酒の甘い香りがふわりと。首里の高台にひっそりと製造所を構える「なぎいろ」のパウンドケーキは、見た目も、味も、素材も、そしてそこに込められた想いも、すべてが特別。胸に響くおいしさの秘密を、なぎいろの伊波良子さんにうかがいました。
驚きが詰まったプレミアムなパウンドケーキ
「『紅芋小町』と名づけたこのパウンドケーキは、私と夫で営んでいるレストラン「首里 東道Dining」でお客様にデザートとしてお出ししていたものです。有り難いことにとても好評で、持って帰りたいとのお声をいただくことも多かったことと、私自身が沖縄の紅芋の素材としての素晴らしさやおいしさをどうにかして伝えたい、おいしい紅芋がたっぷり入ったパウンドケーキを食べて欲しいって思ったので、商品化することにしたんです」。
伊波さんがレストランで提供するのは、厳選した素材と調味料、沖縄ならではの食材に合った調理法による“本物”の琉球料理と、伝統食材を世界の味とフュージョンさせた万国津梁料理。何百年と受け継がれてきた琉球料理を未来に残す役割を担える、数少ない「琉球料理伝承人」と「沖縄食材スペシャリスト」の資格を持つ伊波さんだからこその料理は、素材、調理法、見せ方の一つ一つへのこだわりは相当なもの。
「私が料理をするときに大事にしているのは、沖縄の「命薬(ぬちぐすい)」という考え方で、小さな子どもでも安心しておいしく食べられるものということ。それなので、紅芋小町も添加物は一切使わず、素材の力と製造方法で日持ちできるように考えました。生地に使っているのは北海道産の小麦粉、国産のバター、新鮮な卵。でも、2ヶ月は日持ちするんですよ」。
しっとりしたパウンド生地のおいしさもさることながら、中に練りこまれた紅芋あんが絶品。紅芋ならではの味と香りにラム酒がマッチして、なんとも上品な仕上がりに。この味わいを出すために、伊波さんはバーテンダーであるご主人に相談し、紅芋あんに合う洋酒を選んだといいます。
「紅芋小町ではとにかく紅芋のおいしさを伝えたかったので、作り方にも、量をたっぷり使うことにもこだわっています。作るときには、最初はお芋の選定からスタートしますから。農家さんが収穫した紅芋の水分量や味、色などの品質をチェックして、紅芋小町に最適なものを選びます。それから、お芋と砂糖のみで丁寧に炊き上げているのが製法の特別な点。これによりデンプンなどの凝固剤などが混ざらないので、紅芋本来の甘みや風味がしっかりと生きるんです」。
また、いつでも「どうやったら最上級のおもてなしができるのか」を考える伊波さんは、紅芋小町を贈った人、贈られた人をもっと幸せな気持ちにすることはできないかと考える中で、さらなるアイデアを思いついたとのこと。
「ちょっと贅沢で特別感があるものをもらえたら嬉しいんじゃないかと思って。それで、スタンダードな『紅芋小町』のほかに、石川県金沢市の金箔を使った『紅芋小町KUGANI』も作ったんです。沖縄の伝統野菜である紅芋と、400年の歴史がある金沢の伝統工芸である金箔のコラボで、現代の新たな贈り物ができるのは素敵だなと思って」と伊波さん。贈り物をした時に、その地域のことについて話題が広がることは、実は伊波さんの大きな狙いの一つなのです。
沖縄に導かれ、首里のまちとともに
なぎいろがお店のコンセプトにしているのは「沖縄の今と昔をつなぐこと」。沖縄出身のご主人と出会ったことから沖縄へ移住した伊波さんにとって、歴史も食も、沖縄は知られていない魅力にあふれていて、そのことをもっと知って欲しい気持ちがとても強いのだといいます。「450年におよぶ琉球王朝で育まれた素晴らしい文化や、伝えられてきた食を、現代の人たちにも受け入れられやすいかたちにして提供したいといつも思っています」と伊波さん。
沖縄へ来た時からなぜか惹かれて、お店を持つことで縁ができた首里のまちは、伊波さんにとって今やかけがえのない場所。だからこそ、2019年の首里城火災は、今でも胸が締めつけられるほど辛く、衝撃的なできごとだったといいます。
「火災当日は涙が止まらなかったけれど、泣いていても何も変わらない。だったらできることをしよう、沈みがちな首里のまちを、私ができることで盛り上げてようと思って、首里城復興の活動として、首里生まれのものを使った『首里味噌ラフテー』を販売することにしました」。
お店で提供していた味噌ラフテー(味噌煮豚)を首里のもので完成させようと、レストランオープン時から使っていた伝統ある玉那覇味噌醤油の味噌はもちろんそのまま使用し、瑞泉酒造、瑞穂酒造、識名酒造の3つの酒造所の泡盛を使って首里のまちを元気づけたいと思ったという伊波さん。見事、酒造所の協力を得られ、今の「首里味噌ラフテー」ができあがりました。
「首里味噌ラフテーもそうですが、パウンドケーキもお料理も、私一人の力では決して作れなくて。素晴らしい食材を提供してくださる農家さんや作り手さんがいるからできることなんですね。だからお客様には料理だけでなく食材についても伝えますし、お客様からいただいた言葉は食材を提供いただく皆さんにも必ず伝えます。料理を通してチームで沖縄の魅力を伝えていると、いつも思っています。そうやってたくさんの人の力でできた料理やお菓子を食べた人たち、贈った人たちみんなが幸せになれたら最高ですね」。
特別な想いと、忘れられない味と。なぎいろから生まれるおいしさを通して、沖縄への大きな愛を感じて欲しい。