【よみもの】石が持つ個性を活かした、愛嬌たっぷりの守り神 | 樂園百貨店

石が持つ個性を活かした、愛嬌たっぷりの守り神

2019.03.13

PEOPLE

ごつごつと力強さを感じる琉球石灰岩に、どこかとぼけたような愛嬌たっぷりの表情。『スタジオde-jin(デージン)』の石で作られたシーサー、石獅子(いしじし)は、ちょっとした割れや欠けも含め、石が持つ個性を活かして丁寧に手彫りで作られています。手に取るとずっしりと重く、ひとつひとつ微妙に異なる雰囲気が魅力です。那覇市首里にギャラリー兼工房を構える若山大地さん、恵里さんご夫婦を訪ね、石獅子の歴史や魅力、楽しみ方を教えていただきました。

村落を災いから守る、琉球石灰岩の素朴な石獅子

―沖縄の民家の屋根などでよく見かけるシーサーと比べて、ごつごつとした質感と丸っこくて可愛らしい形が特徴的な石獅子ですが、そもそも石獅子とはどういうものなのでしょうか?

大地 簡単に言ってしまえば、石でできたシーサーのことです。元々はシルクロード経由で中国から伝わったものなので沖縄独特のものというわけではないんですが、昔、沖縄の村々の入り口に琉球石灰岩やさんご石で作られた『村落シーサー』というものが置かれて、その集落を守っていたらしいんです。僕たちの石獅子はそれをルーツに、現存しているものを参考にしながら作っています。

昔は、首里近辺に住まう士族と庶民の間には圧倒的格差があって、庶民が個人でものを持つなんて考えられない時代でした。それで、集落を守る村落シーサーが作られるようになったのではないかと。その後、明治時代に廃藩置県で庶民も瓦葺きとかが許されるようになったら、シーサーを個人所有することが増えてきて、村落シーサー、石獅子の文化が徐々に廃れていったんだと思います。

―そんな石獅子にお二人が魅せられたのには、どういったきっかけがあったのでしょうか?

大地 僕たちは二人とも沖縄県立芸術大学の彫刻科出身で、僕自身はずっと石の彫刻を専門にしていたんです。僕が大学院を卒業し助手を経て、さあこれからというときに、大学のひとつ上の先輩で琉球張り子作家の豊永盛人さんが、「沖縄で石の彫刻やるんだったら、村落を守る石獅子というのがあるからいちど調べてみたら?」と、那覇市上間にある石獅子を見せに連れて行ってくれたんです。

そこで出会ったのが、巨大な頭にすさまじい眼力をもった琉球石灰石のシーサーで。なんだこれは!?と衝撃を受けました。沖縄にこんな素晴らしい石文化があったということに感動したのと同時に、これを仕事にしていけるかもしれない、と直感的に感じたんです。

―その後、ご夫婦で一緒に石獅子を探求していくことになったようですが、お二人の役割分担はどのようにされているのでしょうか?

大地 これもまた豊永さんからきっかけをもらったんですが、いきなり石獅子をポンと出しても誰も理解してくれないだろうから、まずはイメージを定着させるためにも制作と同時並行で研究をしていかないといけないんじゃないか、と。それでとにかくまずは実物を見に行こうと、翌週には妻を強引に誘って石獅子探訪みたいなことを始めていましたね。

恵里 その頃、まだ下の子が0歳だったから、実は私はそれどころじゃなかったんですけどね(笑)。とりあえず、子どもを連れて何も分からずについて行ってた感じです。

大地 最初は全然興味無さそうだったんですけどね。途中からだんだんのってきて、自然と資料作りは彼女の担当になった感じです。

恵里 公民館とかで聞き取りをしていると、みなさんすごく親切で、すぐに電話してもっと詳しい人を呼んできてくれたりするんですね。私としてはそうやってどんどん人を巻き込んでいきたいんですけど、この人すごくシャイなんですよ。取材に行ってもあんまり人に喋りかけられなくて。もうじれったいから、私がやる!っていう感じで今に至っています。

大地 そうなんですよ(苦笑)。今では僕より圧倒的に石獅子の知識があります。

恵里 話を聞いていると、点と点が繋がってくるんですよね。そういうのがすごく面白いです。今は140体ぐらいの資料があるんじゃないかな。道が悪くて行けなかったところ以外、だいたい集まったと思います。

―今まで見てきた中で、「これは!」と思う石獅子はありましたか?

恵里 沖縄市古謝(こじゃ)の獅子がね、すっごく怖いんです!他には無いような形態だったので、あれはちょっと驚きましたね。手が付いていて、しかも奥行きが結構あって…。なんでこんな形になるかな、って。石の質も気持ち悪くて。

大地 獅子舞が立ったときの様子っぽいよね。

恵里 そう、古謝には獅子舞があるんですよ。だからそれがモチーフなのかな。あとは、西原町呉屋(ごや)の獅子も面白かったです。すごく頭が大きくて、モアイっぽいというか…。これも他では見ない形態だし、なんともいえないバランスなんです。後はやっぱり、那覇市上間の『カンクウカンクウ』も外せないですね。

大地 僕が最初に豊永さんに連れられて見に行って、衝撃をうけたやつですね。やっぱり恵里も魅了されたみたいです。ほんとに石獅子にはそれぞれすごく個性があって面白いんですよ。

石の持つ個性を活かし、ひとつひとつ手作業で。

―石獅子はどんなふうに作っていくのでしょうか?

大地 まずベースとなる琉球石灰岩のブロックがあるんですが、これは石材屋さんである程度大きさや形を揃えて切り出してもらっています。以前はこれも機械を使って自分でやっていたんですけど、それだと一日二個ぐらいしか作れないし、騒音と粉塵もすごくて…。

恵里 粉塵で視界がゼロ。おかげで切っちゃいけないものを切っちゃったり…。

大地 そうそう、手元すら全然見えないんですよ。ホワイトアウト状態。

恵里 しょっちゅう怪我もしてくるし、もうこれは危ないからやめたほうがいいね、って。

大地 運良く知り合いのつてで石材屋さんにブロックの切り出しまでお願いできるようになってからは、本当に助かっています。今使っているブロックは二種類あって、白っぽいほうが勝連(かつれん)で採れる“勝連トラバーチン”、茶色っぽい方は港川で採れる“粟石”(あわいし)と呼ばれるものです。

ひとつひとつ個性がかなり強いんですよね。表面にクラックと呼ばれる欠けたり穴が空いている部分があると、顔部分には使えないんです。だからまずはブロックをぐるぐる回しながら、どこに顔を作るのか、どの向きに身体を作るのかを決めていくんです。作るかたちが定まったら、床で大まかに割って形を整えてます。その後、挟んで固定しておく万力(まんりき)という道具に挟んで、細かい部分を少しずつ削っていく感じですね。

―ひとつひとつ石に合わせて作っていくからこそ、仕上がりの表情もそれぞれ違ってくるのでしょうね。制作工程でいちばん難しいのはどこでしょうか?

大地 身体的につらいのは、最初の大まかに割っていくところですね。床で作業をするので体勢もきついです。でもいちばん怖いのは、最後の最後で割れてしまうことですよね。仕上げで目の部分を掘っているときに、片目がポロッと取れちゃった…なんてこともたまにあるので。もう、それなら最初で割れてくれよ〜!って。

恵里 私、いつもギャラリーの一画でデスクワークをしているんですけど、工房のほうから「だあああっ!」って叫び声が聞こえてくるんですよ。

大地 声だしてるっけ(笑)いやでもね、やっぱりショックなんです。とても割れやすい石なので慎重にやらないといけないって、毎回思いながら作っています。

室内でも、屋外でも。自由に楽しむ石獅子のある暮らし。

―琉球石灰岩でできた石獅子は、どんなところに置いて楽しんだらいいでしょうか?

大地 元々は外に置かれていた石獅子ですが、家の中でも気軽に飾って欲しいということで手のひらサイズのものを作り始めたので、ご自分がここだと思う好きな場所に置いてほしいですね。ある程度大きさがあるものなら屋外に置いて、本来の石獅子ならではの色が変わったり黒カビが生えたりという経年変化を楽しんでいただくのもおすすめです。

石獅子って、たしかに守り神ではあるんですけど、インテリアとして置いてもいいし、神様として置いてもいいし、どう感じるかは買った方にお任せしたいと思っているんです。でも以前、ある展示会をしたときに、石獅子を外に置くなら“魂”を入れたほうがいいですよ、と教えてくださった方がいて。その話が、ストンと腑に落ちるご意見だったので、それから僕たちも外に石獅子を置く場合は魂を入れることをおすすめするようになりました。

▼”魂の入れ方”

―これまで、どれぐらいの種類の石獅子を作って来られたのでしょうか?

大地 うーん、何種類ぐらいあるんだろう…。ちゃんと数えたことは無いんですが、50〜60種類ぐらいはあると思います。これも僕がバリエーションを増やしていったというよりは、琉球石灰岩という石の性質や、人との出会いでどんどん増えていった感じですね。こんなの作って欲しい、とオーダーをいただいたりして。

石獅子以外にも、猫の展示会のときには猫を作ってみたり、干支にあわせて酉や猪を作ってみたり。ポイント的に石に色を塗ったものとか。大学で彫刻の形態を追い求めているときは、石に色を塗るなんてことはタブーな気がして、とても手が出せなかったんですけどね。

恵里 そう。石の世界では、塗るという行為が邪道だという雰囲気があるんです。

大地 実はそうでもなかったりするんですけどね。なんとなくそんな気がしていて。
でも、お客さんからのリクエストもあって、色を塗った作品も作るようになったんです。

恵里 色を塗っているとき、すごく楽しそうでしたよ(笑)

大地 今となってはそういう固定観念みたいなものを外して、すごく自由に作らせてもらっています。あと石獅子の背中が植木鉢になっているやつもあるんですが、これは彼女のアイデアです。

恵里 琉球石灰岩は陶器と似たような性質を持っているから水はけもいいし、植物を入れたら面白いんじゃないかなって。多肉植物とかサボテンとかがおすすめです。いつもアイデアがぱっと浮かんだらとりあえず彼に伝えるんですけど、「こんなのできないよ」とブツブツ文句を言いながらも結局作ってくれるんです。

大地 いやね、機械を使わないと作れなさそうなものばっかり言うんですもん。
もちろん機械を否定しているわけじゃないんですけど、工房内で使うのはなかなか厳しいし、やっぱり僕は手彫りにこだわりたいという想いがあって。昔は機械も使うこともあったんですが、やっぱり自分の中で納得できていないというのもあって、使うのをやめたんです。
今は手彫りしかやっていないので、年々技術が蓄積されていくし、手でこれだけのものが作れるんだっていう自信がついたのは、この石獅子たちのおかげですね。

スタジオde-jin

若山大地(制作)・若山恵里(リサーチ・事務)
沖縄県で生まれ愛知県で育った夫と滋賀県出身の妻の夫婦ユニット。ともに沖縄県立芸術大学彫刻専攻を卒業。2011年にアトリエを構え、石獅子の制作を行う傍ら、現存している石獅子の調査を行っている。琉球新報『週刊カフウ』にて、『歩いて見つけた石獅子探訪記』を第一金曜日連載中。